2025年10月27日(月)
最後の10分
日付が変わって深夜1時30分頃、風呂に入りがてら母の様子を見に行った。寝ているかなと思ったら手が動いたので起きてるのかなと思って声をかけた。「大丈夫か?」「あう、あう、」
しばらく前からうまく言葉を発せないようになっているのだが、ちゃんと聞こえているし頭の中ではちゃんと喋りたいことが整理できている。しかしそれをうまく言葉にできないことを本人ももどかしがっている。
「水飲む?息苦しいのか?」
「あう、あう、」
息苦しそうなので胸をさすりながら声をかけ続けた。「どうや?楽になったか?」「あう、あう、」「大丈夫なんか?先生呼ぶか?」「い、いらんいらん」
先生を呼ぶかと聞いたら呼ばなくてもいいと言いながらもどんどん呼吸が苦しげになってきているのが分かる。「呼ぶよ、先生呼ぶからね」「いらん、あう、あう、」何かを訴えようとしているのだがよくわからない。2階で寝ている妹を起こした。「看護士呼ぶぞ!」
訪問看護の緊急連絡先に電話をした。「すぐ行きます!」妹と二人で母の体をさすりながら励まし続けた。「もうすぐ看護士くるよ。がんばって!」「もう少しもう少し」「お母さん、お母さん」「ありがとう!お母さんありがとう!」呼吸が止まった。
「遅いね、もう一回電話してみる!」最初に電話をしてから10分も経っていないのだが待つ身はつらい。「今着きました!」再度電話をしたと同時にうちの前に車が止まったのが分かった。
きのうの昼に訪問してくれていた看護士がすぐに聴診器で心臓の音を聞いたりまぶたを広げてみたりして様態を確認してくれている。「呼吸停止ですね。先生を呼びます」
看護士到着の1分前に呼吸の停止は自分たちでも分かっていたからやはりそうかと思っただけでとくに動揺はしなかった。先生到着まで1時間ほどかかるらしい。驚いていたのは看護士の方だ。「きのうはちゃんと受け答えもできていたのにね」ただならぬ気配を察した父も2階から降りてきた。高齢の父を動揺させないようあえて最後の時には声をかけなかったのだが、後に虫が知らせたと言っていた。
先生到着を待っている間に看護士はてきぱきと処置してくれていた。一緒に体拭きますか?どうぞ拭いてあげてください。何か着せたい服があれば着替えさせましょうか。パジャマのままというのもあれでしょうし。氷とかアイスノンみたいのあります?一通りの処置が終わって看護士は戻っていった。うちにばかりかかってはいられないのは当然だ。
しばらくして先生が到着。
すぐに診断が下った。
令和7年10月27日午前2時49分。